秋の全国交通安全運動特集 問われる事業用自動車の安全

インタビュー 国土交通省自動車局安全政策課 平井隆志 課長
2016年1月15日に軽井沢スキーバス事故(乗客13人・乗員2人死亡、重軽傷26人)が発生し、社会に大きな衝撃を与えた。3月18日には事業用トラックの追突に端を発した山陽道・八本松トンネル火災事故(2人死亡、重軽傷64人)が発生するなど、事業用自動車の安全性が問われている。国土交通省はこのような悲惨な事故を2度と繰り返さないとの決意のもと、軽井沢スキーバス事故対策検討委員会が6月3日にまとめた「総合的な対策」の具体化に総力を挙げている。「秋の全国交通安全運動」(21~30日)にあたって、国交省自動車局の平井隆志安全政策課長に、最近の事業用自動車事故の特徴と安全対策などを聞いた。

バス「車内事故」タクシー「出会い頭事故」トラック「追突事故」 業態ごとの特徴に即し対策「事業用自動車総合安全プラン2009」業界と一体で取り組む

最近の事業用自動車の重大事故の発生状況と特徴

2015年中の事業用自動車が第一当事者となった交通事故件数は全体で3万6449件と前年に比べ3200件減少し、業態別ではバスは1772件で200件減、タクシーは1万4902件で1211件減、トラックは1万9825件で1739件減と、すべての業態で減少した。
その一方で、1月15日には軽井沢のスキーバス事故が発生し、3月17日には山陽道の八本松トンネルでのトラックの追突・炎上事故など、社会的な影響が大きい悲惨な事故が発生している。このような悲惨な事故が起きないように、徹底的な事故防止対策に努めていきたいと考えている。
また、15年中の事業用自動車の死亡事故件数は全体では399件と9件減少し、バスは増減なしの17件、タクシーは7件増の49件、トラックは9件減の333件となっている。
業態別の事故の特徴としては、バスは車内事故が最も多く、人身事故の28%を占めている。このうち、発進時における車内事故の割合が約4割と高く、車内事故の負傷者は65歳以上の高齢者が半数以上を占めていて、男性よりも女性のほうが約6倍と圧倒的に多い。
タクシーは出会い頭の衝突事故が21%と最も多く、このうち85%が交差点内で起きている。空車時の事故が実車時に比べて約3倍多く発生しているのもタクシー事故の特徴と言える。
トラックは追突事故が最も多く、48%を占めている。追突事故は午前6時~午後6時の昼の時間帯に約4分の3が発生している。死亡事故は横断中の人との事故が23%と最も多く、次いで他車との追突事故が17%と続いている。追突死亡事故については午前0時~6時の深夜から明け方の時間帯が多くなっている。
国交省としては2009年に「事業用自動車総合安全プラン2009」を策定し、14年11月に中間的な見直しをしている。この中で、1~2年内に施策の評価を行うとされているので、来年度にも「プラン09」のフォローアップを予定している。
軽井沢のスキーバス事故については、軽井沢スキーバス事故対策検討委員会で6月3日に「安全・安心な貸切バスの運行を実現するための総合的な対策」が取りまとめられ、それを踏まえて種々対策を取っている。引き続き、この秋、来年の春の行楽シーズンを見据え、しっかり対策を取っていく。
事業用自動車の死亡事故についても、減少率が低くなってきているという印象を持っている。事業用自動車事故は全体的には減少傾向にある。これは関係者が総力を挙げて取り組んでいただいたり、ASV(先進安全自動車)の技術を搭載した車両の普及があってのものだと思っている。
ただ、死亡事故の減り方が若干頭打ちになってきていると感じている。自動車運送事業交通事故対策検討会の中で、バス、タクシー、トラックの各モードにおける交通事故統計をマクロとミクロの両面でもう少し細かく踏み込んで分析し、具体的かつ効果的な対策の検討を行うことにしている。
引き続き、「事業用自動車総合安全プラン2009」の実現に向けて、関係業界と一体となって取り組んでいきたいと考えている。

「秋の全国交通安全運動」の重点

秋の全国交通安全運動は例年と同様、子どもと高齢者の交通事故防止が運動の基本となっている。高齢者が交通事故の半数以上を占めており、相変わらず子どもがけがをする事故が発生している
自動車に関しては、

  1. 事業用自動車等の安全運行の確保
  2. 車両の安全対策の推進
  3. 後部座席を含めた全ての座席のシートベルトとチャイルドシートの正しい着用の徹底
  4. 事業用自動車の事故等の情報の提供

を重点事項に取り組むことにしている。
このうち、事業用自動車等の安全運行の確保は何と言っても、軽井沢スキーバス事故を踏まえた再発防止策が中心になる。6月3日に軽井沢スキーバス事故対策検討委員会において取りまとめられた「安全・安心な貸切バスの運行を実現するための総合的な対策」に掲げられた事項について、実施可能なものから速やかに実施することにしている。
さらに、乗客の安全を確保するためにシートベルトを座席に埋没させないなど、乗客が常時着用できる状態にしておくこと。また、車内放送などにより乗客にシートベルトの着用を促すとともに、発車前に乗客のシートベルトの着用状況を確認すること。
運転者の体調急変に伴う事故を防止するため、「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」に基づき、適切な運行管理に努めること。過労運転を防止するため、「労働時間の改善基準告示」の順守、特に高速バスや貸切バスは交替運転者の配置基準を順守徹底すること。
歩行者と自転車利用者、特に子ども、高齢者、障害者の安全に配慮すること。飲酒運転の根絶のため、アルコール検知器の使用を徹底することなどを呼び掛けていく。
業態別の事故の特徴は先ほど申し上げたとおりだが、乗合バスについては車内事故を防止するための安全対策、タクシーについては交差点内での出会い頭事故を削減するために一時停止、トラックについては追突事故防止対策を徹底したいと思っている。

貸切バス許可に更新制を導入

軽井沢スキーバス事故対策検討委員会の「総合的な対策」の具体化

「総合的な対策」に基づいて、監査や処分の実効性の向上だとか、貸切バス事業許可への更新制の導入などにより、不適格者を排除することにしている。
次のスキーシーズンを迎える前に必要な措置を講ずるため、法改正の検討を始めている。法律改正が必要な事項としては、主に次の3つを考えている。
まずは、安全に事業を遂行する能力を有しているかどうかを定期的に確認するための貸切バス事業許可への更新制導入。
2点目は、事業許可の取り消し処分を受けた事業者や、運行管理者資格者証の返納命令を受けた者の欠格期間の強化。安易な再参入を防止する措置として、欠格期間の強化を検討している。
3点目は、貸切バス事業者に対して民間指定機関による巡回指導を行うための負担金制度の創設。この3つを柱として、スキーバスシーズンを迎える前に対策の実施を図っていきたいと思っているので、現在、局を挙げて法改正の検討を進めている。
予算関係では来年度概算要求の中で、不適切事業者の排除など監査の実効性を向上させるために必要な手段としてICTを導入するとか、覆面調査の実施といった監査では分かりにくい運行実態の調査のために必要な予算を要求している。
法改正とも関係するが、民間指定機関による適正化事業が円滑に実施していくための費用も概算要求に入れている。民間指定機関がきちんと回り始めれば負担金で運用することになるが、その事前準備のための予算を手当てする。
ハード面の対策としては、先進安全自動車(ASV)の導入とか、ドライブレコーダーやデジタル式運行記録計といった事故防止に有効な機器の普及拡大の支援や、事業用自動車事故調査委員会の費用として新たに実車を用いた走行試験ができるような予算要求もしている。
法令順守をしっかりできるように、環境整備を行うための予算要求をしている。
税制改正では、貸切バス事業全体の安全性の向上を図る観点から、新車の導入促進に資する税制上の措置を要望している。詳細については今後、税務当局と検討していくことにしている。

健康起因事故の防止対策

健康起因事故については、14年に自動車運送事業者から国交省に運転者の健康に起因する事故が220件報告されている。これは必ずしも人身事故や物損事故になっていなくても、運行をやめたものも含めている。
健康起因事故は事業用自動車だけでなく、最近、自家用車でも大阪で健康に起因した事故があり、話題になった。この事故は警察庁の所管だが、われわれ事業用自動車を担当する部局としては
健康起因事故を防止することは非常に重要だと思っていて、昨年9月に「事業用自動車健康起因事故対策協議会」を設置し、様々なチェックの仕方やスクリーニング検査の普及方法についての検討を開始した。
第2回の協議会は今年2月18日に開催したところだが、今後、健康起因事故の防止に効果的な健診手法の更なる普及促進に向けて、今年度は海外におけるスクリーニング検査に関する規制の動向とか、国内で個別の事業者さんが取り組んでいるスクリーニング検査の先進事例の調査をやっていきたい。

次世代運行管理・支援システムの検討状況

次世代運行管理・支援システム検討会はデジタコの検討を当然進めているが、今年度はまず軽井沢スキーバス事故を受けた貸切バスへのドラレコの義務付けを最優先で検討している。
具体的には、ドラレコの技術的な要件について、この検討会で議論している。5月から検討会のもとに「貸切バスに装着を義務化するドライブレコーダーに関するワーキンググループ(WG)」を設置し、種々の検討を行っている。このWGの議論を踏まえて、8月26日に検討会を開催し、おおむねの方向について合意をいただいた。
今後の次世代運行管理・支援システムのあり方については、近年の様々な自動車情報をビッグデータとして活用しようとする民間レベルの取り組みとか、個々の運転特性の改善状況を考慮しながら、運行記録計の普及とか義務化などロードマップの所要の改善を行ったうえで、引き続き検討していきたいと考えている。

最近の行政処分の状況

軽井沢のスキーバス事故を受けて設置された軽井沢スキーバス事故対策検討委員会で事業参入時および事業参入後の安全に対するチェックの強化とか、監査の実効性の確保、旅行業者を含めた安全対策の強化などの再発防止策について、6月3日に取りまとめていただいている。
この「総合的な対策」の中で貸切バスに対する行政処分に関して、事業停止と事業許可取り消し処分の対象範囲の拡大とか、車両の使用停止処分の日車配分の見直し、処分量定の見直し、運行管理者に対する行政処分の見直しが指摘されている。
このうち、事業停止と事業許可取り消し処分の対象範囲、「一発取り消し」と言っているが、社会的な影響が大きい場合は違反点数の積み上げではなく、取り消し処分をしていくことについては6月3日に行政処分の基準の改正を行い、7月1日から施行した。
そのほか、車両の使用停止処分の日車配分と処分量定の見直しについては年内に実施すべく作業を進めている。引き続き、重大な違反を行う事業者に対しては厳正に処分していきたいと考えている。

[寄稿者情報]
株式会社交通毎日新聞社: 大正13年3月設立。交通毎日新聞の発行のほか自動車専門書・雑誌の発行、団体機関紙などの編集・発行を行う。交通毎日新聞の購読のお問い合わせはこちらから

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