日本バス協会の2015年度「貸切バス事業の収支状況」によると、調査対象事業者385社の運送収入は1646億円、経常費用は1405億円で、経常損益は241億円の黒字となり、経常収支率は117.2%と前年度よりも10.8ポイント上昇した。
原油価格の下落により、燃料油脂費の原価に占める割合は14年度の10.9%から7.7%に低下したこともひとつの要因だが、14年度から導入された新運賃・料金が貸切バスの経営改善の導きの糸となりつつある。
東京バス協会によると、会員貸切バス事業者の15年度の運送収入はピークだった1991(平成3)年度の約3割に激減している。これは2000(平成12)年2月の規制緩和後、新規参入が急増して価格競争が激しくなり、同時にデフレ下で旅行商品の低価格化が進んだことが大きい。会員事業者も多少増えているが、大手の撤廃などで車両数は25%減少し、実働1日当たりの収入は22%下落した。
その一方で、16年9月末現在で都内の未加入事業者は299社と会員の3.6倍にのぼり、車両数は2287台と会員車両数の1.2倍と圧倒している。運賃動向はこれら未加入事業者に左右されてきた。
貸切バスの新運賃・料金制度は14年3月末に各運輸局で公示され、順次適用を開始した。東バス協の会員事業者の14年度の運送収入は新運賃・料金制度の浸透がまだ薄く、運賃の値上げによるバス離れもあって前年割れだったが、実働1日1車当たりの収入は11%上がった。
15年度の運送収入は前年度に比べ3%増え、日バス協調べの収支状況と同様な傾向を示し、日車当たりの収入は17%も急伸した。ただし、実働率は13年の65.8%から14年度63.7%、15年度59.1%と低下している。
東バス協の青木正勝貸切部会長(ワールド自興社長)は「新運賃・料金の公示後、運賃が上向いている」と好感しながらも、「稼働率が低下し、16年度実績はこれからだが、軽井沢スキーバス事故の影響を心配している。予約の入りが少ない。下限割れ運賃がまだ残り、旅行業者から手数料アップの要請があるとの声も聞かれる」と今後も注視していく必要があるとの見解を示す。 ところで、新運賃・料金は関越道・高速ツアーバス事故(12年4月29日)をきっかけに、安全コストを織り込んで制度化された。14年度から本格的に導入され、運輸当局も新運賃・料金の届け出を強く指導し、監査でのチェックを強化していた。その途上で、軽井沢スキーバス事故(16年1月15日)が発生し、事故を起こした運行会社のイーエスピーは下限割れ運賃で運送を引き受けていたことが判明している。
貸切バスと旅行業者は元請け・下請けの関係にあり、バス事業者に対する監査・処分と旅行業者への対応が不可分に結び付いている。
国交省は関越道・高速ツアーバス事故を受けて、下限割れ運賃など道路運送法違反があり、旅行業者の関与が疑われる場合には観光庁に通報するようにした。通報件数は14~15年度はゼロだったが、16年度は▽国交省→観光庁への通報が31件(うち処分9件)▽観光庁→国交省34件(2件)▽都道府県→国交省42件(1件)と実効性が上がってきている。
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新運賃・料金の収受は安全コストを賄うために不可欠であり、引き続き貸切バス事業者と旅行業者の双方に監視を強めていく必要がある。併せて、魅力的なバス商品の開発・造成しないと稼働率は上がらない。貸切バス業界の再生・活性化と観光振興に双方の連携・協力の重要性が増している。
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