約1年前の12年4月29日未明、乗客45人を乗せて走行中に関越自動車道・藤岡JCT(群馬県)付近で防音壁に衝突し、7人が死亡、38人の重軽傷を出した高速ツアーバス事故は社会に大きな影響を与え、バスのみならず、自動車運送事業の安心・安全に疑念の目が向けられた。この事故を契機に、運送事業の最大の使命は安全であり、安全最優先の企業風土の醸成と運行管理体制の確立、安全・安心を支えるハード・ソフト両面の運行システムの活用があらためて注目を集めている。
高速ツアーバス事故を受けて、国土交通省は▽高速ツアーバス等の過労運転防止のための検討会(12年5月29日)▽貸切バス運賃・料金制度WG(7月25日)▽自動車運送事業者に対する監査のあり方に関する検討会(8月8日)▽バス事業のあり方検討会(10月25日)を相次いで立ち上げた。
これらの4つの有識者検討会は4月1日に報告書を発表し、国交省は同日、2年間にわたる「高速・貸切バスの安全・安心回復プラン」を公表した。
高速ツアーバス事故を起こした貸切バス事業者は国交省の監査で、点呼の不実施や日雇い運転者の選任、名義貸しなど28項目もの法令違反が確認され、極めてずさんな運行管理を行っていた。ただ、このような悪質な事業者を見逃していた国の監査のあり方にも強い批判が出た。
監査のあり方検討会の報告書は悪質な事業者を特定する基準を明示し、優先的な監査と処分の厳罰化など提言するとともに、監査を受け入れる側の運送事業者にはデジタル式運行記録計を活用した運転者の運転時間、拘束時間、休憩時間などを確認できる記録作成を求めた。
本来、監査は行政による事後チェックであって、安全風土の醸成や法令順守、安全運行体制の確立は事業者の社会的責任として自ら実践しなければならない。
さらに、根本的には高速ツアーバスは募集型企画旅行として運行される貸切バスであって、高速乗合バスの規制は適用されていない。しかも、実施主体は旅行業者のため、利用者に対して運送事業者としての安全確保の責任を負わないというビジネスモデルに内在する問題点が最悪の形であらわになった。
高速ツアーバスは7月末までに新高速乗合バスに一本化し、8月以降は高速ツアーバスとしての運行を認めないことにした。
高速乗合バスと貸切バスの交替運転者の配置基準(原則として夜間400㎞、昼間500㎞まで)を定め、ワンマンで貸切バスを長距離・長時間運行する場合はデジタコの装着を義務付け、ドライブレコーダーの導入を推奨する。
高速ツアーバス事故を教訓に、国交省は13年度予算で自動車運送事業の事故防止対策支援事業を10億8千万円(前年度比33%増)と大幅に増額し、デジタコやドラレコの導入支援などの継続に加え、「過労運転防止に資する機器」を新たに補助対象にした。
対象となる機器は▽ITを活用した遠隔地における点呼機器▽運行中に運転者の疲労状態を測定する機器▽休息期間中の運転者の睡眠状態を測定する機器▽運行中の運行管理機器などとする。