乗客守る制動 トラックのデータで自信 三菱ふそう

三菱ふそうトラック・バスは、規制に先駆けて大型バスにAMBを採用し、市場が停滞する中で、コストより安全を優先させる姿勢を見せた。そこで同社の橋口博光バス事業本部長と布川友之バス開発統括部バス開発部長に、AMB搭載の経緯や狙い、発売後の反響などを聞いた。

橋口バス事業本部長(左)と布川バス開発部長

《大型バスにAMBを搭載した経緯を》

大型バスは大型二種免許を持った腕の良い運転手が操作しているので、基本的に運転手の意志を尊重し、疲れを検知して注意を促す運転注意力モニター「MDAS」を標準装備してきた。さらに今回、万が一の時にブレーキをかけて被害を軽減させるシステムを搭載することにした。
このシステムは2年ほど前からトラックに搭載しているが、バスの場合はお客さまが乗っており、急ブレーキをかけた際に車内事故につながるため、システムの搭載に神経質になっていた。
しかし、トラックに搭載してから様々なデータが集まり、バスにも使えるシステムだと自信を持てるようになり、搭載することを決めた。

《トラックに搭載したAMBとの違いは》

トラックの場合は最終的にフルブレーキをかける設定だが、バスは多くの実験を繰り返し、お客さまが立っていてもなんとかつかまってこらえられる程度の制動がかかるようチューニングしている。
衝突時のスピードが10㎞低下すれば、死亡事故の割合が半分になるという統計からも、完全に止まらなくても十分に被害軽減効果はある。総合的に見て、現段階ではチューニングを施した方が乗客の被害が少ないと判断した。

《ミリ波を採用した理由》

一番の理由は悪天候に比較的強いということだ。過去にレーザーを使った車間距離警報システムを採用したことがあるが、ミリ波を使うことで、雨や霧の時の検知精度が上がっている。

《AMBを作動させるには》

時速15㎞に達すると自動的に設定される。手動でオフにするスイッチも設けているが、エンジンを切って再始動した場合には自動的にオンになるよう設定している。

《衝突後も停止しないようにした理由は》

機械的にフルブレーキをかけて停止させてしまっては、揺り戻しによって乗客の被害が大きくなる。バスのドライバーは緊急時にも乗客に配慮したブレーキ操作ができるので、ドライバーにブレーキをゆだねることが、総合的に見て最も安全だと考えた。衝突後にロックさせない点も、そうした考えに基づいている。AMBはあくまでも運転手を補助するシステムで、警報後にドライバーがブレーキをかければ衝突前に十分停止できる。

《AMBの標準装備は利益低下を招かないか》

ユーザーは低価格を求めているので、精一杯の価格付けをした。結果、正直、利益率は低下しているが、安全を優先した。規制の有無にかかわらず、こうしたシステムの搭載は必然だと思う。標準装備したことで台数が増え、今後、製造コストが下がることを期待している。

《開発に際してダイムラーグループの役割は》

今回搭載したAMBやMDASに関しては、ふそう独自で開発したものだ。しかし、安全技術に関しても基礎研究はダイムラーグループで一緒にやっているので、次世代車には共同開発したより高度な技術を搭載できるはずだ。

《ドライバーへの講習は必要か》

基本的には特別な技術、操作ともに必要ない。ただ、警報音を覚えてもらうために、DVDを作成してドライバーに見ていただくようにしている。

《AMB標準装備によって車体価格がアップしたが、顧客からの反応は》

安全に対して敏感になっているので、好意的に受け入れられている。昨年末から顧客向けの体験会を開催しているが、否定的な意見はまったくない。
実際には廃車までに1回働くかどうかというシステムだが、経営者にとってもドライバーにとっても安心につながる。

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