国土交通省総合政策局公共交通政策部・渡邊一洋部長に聞く 交通基本法の設立に全力 バスは地域公共交通の要

国土交通省は平成23年度予算から、地方バスをはじめ陸海空の地域公共交通の補助予算などを総合政策局に集約し、各モード全体では前年度予算比42%増の305億円を確保した。

また、7月1日付で組織改正を行い、交通基本法に対応した予算・制度・組織を整備している。交通基本法案は3月8日に閣議決定され、第177通常国会では継続審議となり、今臨時国会での成立に全力を挙げている。組織改正で新設された総政局公共交通政策部の初代となる渡邊一洋部長にインタビューした。

〈公共交通政策部の役割と機能は〉

 今年7月に公共交通政策部ができたわけですけれども、その背景としては、これだけ激動している時代に公共交通政策もいままでの延長線上では駄目なのではないか。やり方をもっと抜本的に見直さなければならないのではないか、という認識があります。
 よく言われることですが、例えば少子高齢化で人口そのものが減少し、移動の需要が減少傾向にある中で、いかに公共交通を地域の足として引き続き活用していくか、ということが重要な課題になっています。
 別の側面では、国際競争がこれだけ激化している時に、世界と伍してわが国が経済成長を維持していくために公共交通が果たす役割は大きいわけですから、それにどう対応していくかという課題があります。
 3つ目には、前田(武志)大臣がよく言われているように、低炭素循環型社会の構築ということで、地球環境問題に対して地域公共交通がどう対応するか。わが国のCO2排出量の約2割が運輸部門から排出され、そのうち9割近くを自動車分野が占めていますので、そこのところのCO2の排出をいかに少なくするかも課題です。
 こうした課題を体系的に全省的に考えてみようということで、公共交通政策部ができたと思っています。
 部の体制としては交通計画課と交通支援課、それから参事官、参事官も課長クラスですから3課体制で構成しています。各局から職員を出してもらっていて、鉄道局、自動車局、海事局、航空局はもちろん、道路局の技官や都市局の人にも来てもらっています。
 各局には人的な構成に協力いただいていますので、あとはいかに公共交通政策部が司令塔の役割を果たすかだと考えています。
 公共交通政策部として当面まず何をやらなければならいかと言うと、先の通常国会に提出して継続審議になっています交通基本法案をぜひこの臨時国会で成立させていただいて、交通基本法で求められている交通基本計画を早く作っていきたいと考えています。

〈交通基本法の意義ついて、あらためてお話しいただきたいと思います〉

 いま申し上げたように、いろいろな意味で社会経済情勢が激変している中で、公共交通のあり方をもう一度、抜本的に見直す必要があります。
 これまでの交通施策はともすれば対症療法的な形で行われてきたわけですが、もっと骨太の交通施策の推進の核となるような枠組みを作る必要があるということで、今年の3月8日に交通基本法案を閣議決定し、先の通常国会に提出しました。
 残念ながら、通常国会では継続審議となりましたが、いまの臨時国会で何とか成立していただきたいと、各方面にお願いしているところです。
 交通基本法は交通施策を進めていくうえでの基本理念と、国の基本的な施策を定めています。
 一例を挙げると、基本理念として「交通に対する基本的な需要が適切に充足されなければならない」(第2条)という条文があります。その基本理念に対応して「日常生活等に必要不可欠な交通手段の確保」(第16条)などの施策を講じると書かれています。
 こういうふうな形で理念と施策をタイアップさせながら基本的な方向を書いていることが骨格ですけれども、それ以外にも例えば法制上または財政上の必要な支援措置を講じるとの条文(第13条)とか、交通基本計画を政府全体で作成し、閣議決定をして国会に報告するとの条文(第15条)があります。
 それから、「交通白書」のようなものを毎年作成し、国会に提出(第14条)するということが書かれています。
 さらに、関係者の責務が明確にされています。国(第8条)、地方公共団体(第9条)、それから交通関連事業者(第10条)、国民(第11条)などの責務規定もあります。
 法律そのものは今臨時国会での成立を期していきたいということに尽きます。
 他方で、交通基本計画作りと直接関係があるわけではないのですけれども、9月から「交通の諸問題に関する検討会」を開催しています。
 年内に合計6回くらい開き、いろいろな切り口で自由に議論いただいて、年が明けたらその段階で「交通の諸問題に関する検討会」をどのように進めようか決めたいと思っています。ただ、この検討会は交通基本計画作りとは直接関係はありません。

〈交通基本法におけるバスの位置づけについて〉

 バスというのは、地域公共交通の要だと思っています。
 自家用車が発達して、地域公共交通の採算性が厳しくなってきていますが、マイカーといった交通手段を持たない方々、お年寄りが“買い物難民”化しているだとか、通院が困難になっているとか、そういうことに対応する必要があります。また、学生・生徒の通学の足の確保といったような意味でも、待ったなしの課題です。
 その際にバスの果たす役割は極めて大きいと思っています。だからこそ、交通基本法でも先ほど申し上げたように「交通に対する基本的な需要を充足させる」とか、「日常生活等に不可欠な交通手段を確保する」というようなことを条文でわざわざ起こして書いています。
 そのほか、交通の利便性の向上や円滑化といった基本的な施策もありますので、補助制度を活用しながら、それらにのっとって取り組んでいきたいと思っています。

〈平成23年度予算から「地域公共交通の確保維持改善事業」が創設されましたが、その進捗状況は〉

 平成23年度に地域公共交通に関する予算を抜本的に組み替え、23年度は305億円の新しい補助制度を作りました。
 従来、地方バス路線の補助ですとか、離島航路や離島航空路の補助とか、地方鉄道の近代化のための補助とか、それからバリアフリーの支援の補助とか、いろいろな補助制度がありました。
 そういうものを全体として大括りにして、かつ予算も23年度は305億円と22年度に比べ1.42倍と大幅に増やしました。この305億円を使って、地域の足の確保、バリアフリーの推進、それから調査事業と言っていますが、どういうふうな交通のあり方がその地域にふさわしいかを調査することを支援する事業などを進めていきたいと考えています。
 平成23年度の予算については、すでに交付済みのものがあったり、あるいは内定済みのものがあったりして、順次着実に執行していっています。
 平成24年度概算要求は、今年度の305億円に対応する部分では少し上乗せをして306億円を要求しています。これは概算要求基準の裁量的経費10%カットという原則の中で、何とか横ばい以上の額を維持したいということで306億円を確保したものです。
 それに加えて、東日本大震災からの復旧・復興のための予算は別に上乗せできることになっていますので、復旧・復興枠で26億円を要求していますから、合計では332億円になります。被災地の足の確保について、通常の予算に26億円を上乗せして平成24年度は要求しています。
 平成23年度で305億円、24年度概算要求は306億円プラス26億円ですので、厳しい国家財政事情のもとではありますが、こういう予算を少しでも増やしていくことが私どもの当然の使命だと思っています。

〈予算は具体的にはどのように執行されるのですか〉

 地方バスについては市町村をまたぐ幹線バスの部分と、幹線バスに接続するフィーダー輸送の2つに分けられますが、概算要求では幹線バスの部分もフィーダー輸送の部分も公共交通政策部が要求原課になります。離島航路と離島航空路も公共交通政策部が予算要求を行います。
 執行はと言うと、幹線バスの部分は自動車局と地方運輸局の自動車交通部のラインで執行します。幹線バスと密接な地域内の生活交通(フィーダー輸送)は要求も執行も公共交通政策部でやり、地方運輸局の企画部門が執行します。離島航路と離島航空路の執行は海事局と航空局が行います。
 幹線バスとフィーダー輸送の執行を分けているのは、フィーダー輸送というのはバスだけではなくて、例えば自家用有償運送とか、いろいろなモードが協力し合ってやっていく部分なので、自動車交通部だけで限定的に執行しないほうがいいのではないかということです。

〈東日本大震災の復興支援については〉

 先ほど申し上げた地域公共交通の確保維持改善事業の調査事業には、フィーダー輸送の部分についてどういうあり方がいいのかの実証実験などができる予算があります。
 もともとは1地域2000万円というルールだったのですが、東北の被災地に関しては3500万円にかさ上げし、3500万円の範囲内で実証実験などを最大3年間補助することにしています。
 こういう制度を7月から作ったのですが、被災3県で20市町村以上がこの補助事業を活用して取り組みを始めているとか、始める予定というところにきています。
 平成23年度の本予算に加え、今年度第3次補正予算では8億1000万円を要求しています。これは幹線バスの部分で、被災によって必要な補助分を手当てすることにしています。

〈最後に、バス業界に対する期待を〉

 バス事業そのものは少子高齢化や経済の長期低迷を受けて、非常に厳しい経営状況に置かれていると思っています。
 ただ、先ほど申し上げたように地域公共交通の要ですので、バスが復権しないことには地域の足の確保がおぼつかない状況がずっと続きますし、それは国民全体にとって決して良いことではありません。
 交通基本法の中にも法律上または財政上の措置を講じて支援するとの条文がありますから、これから交通基本計画を作る過程でいろいろな支援措置をよく検討していきたい。
 その際に、効率的な経営とか自助努力もしっかりやっていただくのはもちろんですが、バス事業者に元気になってもらえるような支援措置を充実させていたきいと思っています。

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