インタビュー 国土交通省自動車局長 武藤 浩氏 「安全・安心回復プラン」を集中実施

〈高速ツアーバス事故を受けての対応と有識者検討会の報告書について〉

約1年前の平成24年4月29日に発生した関越道の高速ツアーバス事故では多くの尊い命が奪われ、また多くのけが人を出し、あらためて心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。
事故を受けて、過労運転防止とか、監査のあり方、運賃・料金制度、それからバス事業全体の課題ということで「バス事業のあり方検討会」を設置して、有識者の意見を伺いながら検討を進めてきました。
これらの検討結果を踏まえて、4月2日に「高速・貸切バスの安全・安心回復プラン」を策定し、安全性の向上に向けた取り組みを実施することにしました。今後とも、検討会の検討結果やこのプランに基づいて、安全確保について実効性のある対策を迅速かつ確実に実施し、二度とあのような事故が起きないように万全を期していきたい。

〈「高速・貸切バスの安全・安心回復プラン」の位置づけと進捗管理〉

「安全・安心回復プラン」は年限を切って、平成25〜26年度の2年間で実施するということと、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回す。つまり、実施をしながら、効果がきちんと上がっているのかを見て、必要があればもう一度制度に立ち返り、継続的にチェックすることが重要だと思っています。
そういう意味で、プランに盛り込まれた措置の準備をするだけではなくて、実施をしたうえで、その効果について逐次フォローアップと検証を行っていきます。2年間で取り組みを集中的に実施して、バスを安心して利用いただける体制をつくりたいということです。
具体的には、本省だけでなくて、地方の現場が大事ですので、地方運輸局においても有識者や関係者の参加を得て会議を開催し、それぞれ本省と地方で逐次進捗管理や効果の検証を行い、取り組み内容の充実・強化を図っていきたいと考えています。
「バス事業のあり方検討会」報告書で指摘された「さらなる議論が望まれる課題」については、検討会の最後に「安全の観点から参入規制を引き続き検討してほしい」という意見がありましたので、これは引き続きの検討課題だと認識しています。
いずれにしても、「バス事業のあり方検討会」のあとの検討体制が必要だと思っていますので、「安全・安心回復プラン」の進捗状況を報告することと合わせて、引き続きの検討課題についてはその場で議論していきたいと考えていますが、具体的にはこれからです。

〈新高速乗合バスへの一本化の進捗状況〉

「安全・安心回復プラン」では、新高速乗合バスへの一本化は今年の7月末までに移行を完了させることになっています。いま移行を希望する事業者において、必要となる許認可の申請をすでにしてきたところもありますし、まだ準備中のところもあります。
5月31日現在で、新高速乗合バスに移行したいと表明している事業者が57社ありますけれども、そのうちの48社(84%)が移行についての許認可申請を出してきています。まだ申請に至っていない残りの事業者についても適宜、地方運輸局がサポートしていき、近日中に申請がなされる見込みです。
一番難しいと思っていのが、バス停の確保です。特に大都市周辺のターミナルでのバス停の確保ですが、多くのところで具体的な進捗が見られています。
まだ調整が継続中の地区もありますので、今後、そこにおける調整のバックアップに引き続き万全を期していくとともに、バス停を確保したあと、バス停を利用する事業者間において発着本数とか、発着時間の調整を行っていただくことにしています。
新高速乗合バスの受託を希望している貸切バス事業者は54社ありまして、そのうち5月末現在で申請してきている事業者は29社(54%)です。
昨年9月段階で、高速ツアーバスを運行していた貸切バス事業者は228社でしたが、やはり安全確保というところから撤退した事業者もいます。一方で、既存の高速バス事業者もサービスを充実させて、引き続きやっていこうとしていますので、需給関係は心配していません。
制度としては高速ツアーバスという形態は7月末で終了します。同様のサービスをするには新高速乗合バスの許可をしっかり取ってくださいということですから、制度的にはなくなります。
一方で、8月以降、同様のサービスを許可を取らずに提供する場合には、行政としても監視体制を整えて、そういうものがあれば直ちに停止してもらうように監視していきたいと思っています。

〈乗合バスの維持・活性化と「交通政策基本法」(仮称)の制定について〉

乗合バスは通勤・通学などの地域の日常生活や都市間移動、それから観光振興にも欠かせないわが国の基幹的な公共交通機関であり、年間41億人が利用しています。
しかし、地方部を中心に輸送需要の減少が止まらず、それから景気の低迷と相まって、経営環境は非常に厳しい状況だと認識しています。その中で、多くの事業者が経費削減をして、また運賃を据え置いてバス路線の維持に懸命な努力をされています。
そういう意味で、引き続き乗合バスに対する支援制度の充実を図るなど、乗合バスの維持・活性化に取り組んでいきたいと考えています。
「交通基本法」については、昨年末の衆院解散に伴って、廃案となっています。交通基本法は交通政策について基本理念を定めたものであり、わが国の交通政策の方向性を示す意義があると認識しています。
「交通政策基本法」についてはこれまでの経緯を踏まえ、さらに大規模災害への備えなど、現時点での政策課題に照らして内容を精査する必要があると考えていますので、与党と十分調整しながら検討していきます。

〈消費税増税の転嫁対策〉

バス運賃とか鉄道運賃などの公共料金への消費税の円滑かつ適正な転嫁については、政府に対策推進本部がすでに設置され、公共料金に共通する消費税の価格転嫁の基本的な考え方というものを作成することになっています。現在まだ調整中ですので、近々、公表される予定だと聞いています。
国交省としては、この政府全体の方針を踏まえ、消費税を円滑かつ適正に転嫁しやすい環境の整備に配慮して、バス運賃や料金への転嫁のあり方の検討を進め、適切に対応したいと考えています。
本来、この基本的な考え方はもっと早くできるはずだったのですが、まだ決まっていませんので、それ以上のことはお話できません。

〈バス業界に望むことを〉

乗合バスについては、公共交通機関としての役割が社会的にますます高まっていると思っています。事業者自らが利用者目線でニーズに的確に応えるバス運行を実現していくことが重要です。
まずは輸送の安全確保を最優先に、地域の人々から親しまれる公共交通機関であり続けることを期待しています。
貸切バスについては、先ほどお話した「高速・貸切バスの安全・安心回復プラン」に基づいて、安全性の向上に取り組んでいただきたいと思います。それから、貸切バスというサービスの強みをさらに発揮して、事業の健全な発展に取り組んでいただきたいと期待しています。
バス事業を統括する立場にある日本バス協会においては今後とも、バス事業者のみならず、地域や社会に貢献するバス事業を目指して、その役割を最大限に発揮していただきたいと思っています。国交省としてもバス協会とともに、バスが国民生活と経済社会の更なる発展に貢献できるように、最大限の支援をしていきたいと考えています。

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