日本バス協会 ・藤井章治理事長に聞く

高速ツアーバス事故 背景に規制緩和

 
大型連休の前半の4月29日午前4時40分ごろ、関越自動車道上り・藤岡JCT付近で高速ツアーバスが防音壁に衝突し、7人が死亡、運転者を含む39人が重軽傷を負う大惨事が発生した。高速ツアーバスと高速乗合バスの運行形態は変わらないのに規制が異なるため、日本バス協会は1国2制度の解消と乗合バス類似行為としてツアーバスの「廃止」を主張し、重大事故の発生に警鐘を鳴らしてきた。日バス協の藤井章治理事長に、今回の事故の背景と抜本的な解決策などを聞いた。

今回の高速ツアーバス事故の背景を見ますと、もともとこれを発注した大阪府所在の旅行会社が仲介業者を通して、今回事故を起こした運行会社に東京~金沢間の高速ツアーバスの運転を依頼したようです。
旅行会社から運行会社に対する依頼の内容、安全のチェックなどの注意とかは必ずしも明らかになっていませんが、いずれにしても運行管理者がきちんとしたルールのもとで、今回の東京地区から金沢地区への運行について把握していたという事実はまったくない。ほとんど点呼も行われていないようです。
このように貸切バス事業者が十分な運行管理のもとではなく、運転者任せで、しかも日雇いというような法令で禁止されている運転者でした。のちに、その人が白バスの営業をしていたという疑いを持たれるに至って、まさに貸切バス事業の極めてコンプライアンスのない実態が浮き彫りになってきています。こうした実態は総務省の行政監察でも明らかになっていますが、それが事故の一因になったと思います。
どこかルールが間違っていたかという問題ですが、当初、運転のキロ数の問題も言われましたが、この運転者の場合は片道はサブの立場で運転はしなかった。金沢からの帰りに、高岡以降、事故を起こす区間の運転に携わったということです。
その間、指定された道路ではない関越自動車道を通ったことと合わせて、路線あるいは運行指示との関係で何らかの不備なり、本人の運転の技量の問題なりに疑念を持っている。そういう点ではやはり、この運行会社の運行体制の問題だと思っています。
これまでの様々な規制緩和の中で、こういうギリギリのいわば違反すれすれの、コンプライアンスが守られない実態が事故の背景にある。それを生んでいるのが規制緩和のもとで非常に多くの事業者が参入し、十分な監視もされず、事実上、野放し状態になっている現状が露呈されたということだと思います。ですから、背景としては明らかに規制緩和がある。
もうひとつは、高速ツアーバスについて、平成17・18年通達で募集型企画旅行としてこういう方法を取れば、旅行会社と貸切バスが組んで容易に乗合バスまがいのことができるという仕組みを容認してしまった。
ここにも大きな背景があって、それ以後、ツアーバスが大きな進展を見せるようになり、堂々と合法的な旅行商品として大手を振って販売されるようになった。
インターネット商品販売の寵児(ちょうじ)としてもてはやされ、若年層のお客さまを開拓したという側面は否定はしませんが、一方では平成19年2月にあずみ野観光バスの事故があったにもかかわらず、基盤である安全確保については万全な対策が取られてこなかった。
われわれも貸切バス事業者安全性評価認定制度の実施とか、旅行業界とのパートナーシップなどをやってはきましたが、いまひとつ構造的なところに手が及ばなかった。
ようやく、「バス事業のあり方検討会」の中で2年をかけて結論を得ましたが、非常に長い時間を要したことについては忸怩(じくじ)たる思いもあります。
ことここまで至った以上は、安全を基盤とする高速乗合バスのルールに早急に一本化するための制度設計をしていただきたい。
悪質な事業者が加わらない管理の受委託制度を設計し、しっかりとした乗合バスへの一本化のルールを確立していただきたい。また、高速ツアーバスがあとあと残らないという意味での禁止の仕方の点でも、事務連絡については廃止し、法改正を含めた取り組みをお願いしたいと思っています。
もちろん、安全のルールで言えば高速乗合バスに限らず、一般の観光バスも同じなのはわれわれも重々分かっていますので、いろいろな場面で安全のルールの見直しには最大限協力していくつもりですし、貸切バス事業者安全性評価認定制度についてもしっかりと広めていきたいと思っています。
安全性評価認定制度は今年度も5月末まで募集し、150社以上の申請が来ました。「セーフティバス」マークをひとつのシンボルに、安全に頑張る貸切バス事業者として十分評価を受けて、お客さまの声にこたえられるようにしたい。
また、評価を受けたバス事業者にとってもメリットのあるものにしたいと思っています。
安全の基本は何と言っても、トップから現場までの安全マネジメントの徹底と、個別の運行については運行管理者がきちんと責任を持つことです。
特に、夜間の運行は放置したままでは極めて問題が多い。いざ何かことが起きた時の体制とか、それを含めたバックアップとなる体制を夜間高速乗合バスは当然組んでいますが、しっかりとした取り組みをもう一度再点検してもらっているところです。

新高速バス 制度設計を早く 安全・安心な市場に努力

「バス事業のあり方検討会」の報告書の中で新高速バス事業についての提言が出ていますが、今般、民主党の国土交通・厚生労働合同部門会議から方向づけ(6月5日「高速ツアーバス問題への対応策について」)が提出されています。
まずそれをしっかりやっていくことと、新高速バス事業の制度設計を早く業界にも示していただいて、迅速な移行が図られるように推進していただきたい。
その中で、停留所の確保の問題とか、安全確認のやり方とか、やはり貸切バスと乗合バスだとずい分違うわけですね。新しく乗合バスの許可を取るといっても、貸切バスの風土とはかなり違いますから、そこはわれわれのノウハウを提供してほしいというのであれば、しっかりと提供して、業界全体がお客さまに信頼され、安全・安心な高速バス市場になるように努力していきたいと思っています。
それにはしっかりとした国土交通省の制度設計と、新高速バス事業への移行に向けた取り組みが必要になります。これに協力するというのが、私どもの立場です。 移行しなかった場合に、禁止する方法が法律しかないのであれば、法律できちんと禁止すべきだと思います。行政指導や省令でできるのなら、それでやっていただいてもいい。ところが、国土交通省は「禁止をするには法改正がいる」と言われるので、では「法改正をしてください」と申し上げています。
われわれは以前から高速ツアーバスは高速乗合バスの類似行為で「違反まがいだ」とずっと言ってきている。なぜかと言うと、旅行商品という形態が運送行為そのものだとすると、旅行業と貸切バスが組んだらどんな行為でもできますよね。高速道路だろうと、一般の路線でも乗合バス行為がすぐできてしまう。
そうなると、輸送秩序も何もなくなってしまう。バス事業には乗合バスと貸切バスがありますが、その根幹がおかしくなってしまいます。

貸切バス 適切な参入規制を 需給バランス崩れ、事業者困窮

貸切バスの規制については、行き過ぎた規制緩和を改めて、適切な参入規制、増えすぎた車両台数をもう増やさない措置、それから悪質事業者の退出といったことをきちんとやってほしい。
参入時のチェックも書類審査ということではなくて、現場を確認し、監視の目を行き届かせるようにしてほしいと申し上げています。
運賃・料金は難しい問題で、旅行会社を中心に市場がここまで混乱していますので、どういうルールがいいのか、出口が見えない状況です。
ですから、もう一度制度の原点に立ち返って、われわれもどういうルールがいいか、考えていきたいと思っています。届出制にしても、どこかで制約を設けて、ここからここまでは違反、ここからは有効というようなことですね。
いまは何をやってもOKというような状態ですから、そこは取引の内容を明示していったり、いろいろな形で情報を集めて、いい制度作りをしていかなければならないと考えています。
本当に安い運賃がまかり通っていて、届出制も忘れられている。いのまま、お客さまが決めた運賃でいいのかという問題もありますので、われわれもいま一度点検して、自信を持って「これでやってください」と言えるようなルール作りをきちんしないといけないと思っています。
運賃の問題は参入規制と同時にやっていかないと解決しません。参入を一時止めながら運賃もやり、悪質な事業者の退出もやるという総合的な処方箋(せん)を今回の「バス事業のあり方検討会」の報告書は残念ながら描き切っていない。そこは足りないと思います。
やはり、需給バランスが崩れているということが大きな原因です。それが貸切バス事業者の困窮を招いている。困窮すれば法令順守、コンプライアンスの意識は当然低くなります。
全体的に事故はそんなに増えていないではないかと言われますが、それならばわれわれは2009年に安全プランを作り、その前からは運輸安全マネジメントに取り組んできた。「一体何をやっていたのか」ということになります。
やはり、不安全なことが起こっているから、そういう措置を取られた。あずみ野観光バスの事故もあり、われわれもその時は一生懸命対応したが、残念ながら構造的な問題、貸切バスの参入規制と高速ツアーバスの仕組みの問題点の摘出と解決には至らなかった。本当に悔やまれるところです。

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