追跡 スキーツアーバス事故があぶり出した諸問題

かつては「成人の日」であった2016年1月15日の未明に発生し、大学生ら若者13人が犠牲になった軽井沢スキーバス事故を巡っては運行会社のイーエスピーの多くの恒常的な法令違反だけでなく、

  • 下限割れ運賃の収受
  • 大型バスの運転に不慣れなドライバーの使用と業界全体の高齢化
  • 高速道路ではなく一般道路の使用
  • 旅行業者との下請け関係
  • 貸切バス事業者の協会加盟比率の低さ

など、様々な問題をあぶりだした。しかし、安定的な経営基盤や安全投資の原資になるのは運賃・料金だけである。

スキーツアーバス事故があぶり出した諸問題

東京バス協会によると、会員の貸切バス事業者の運送収入は、ピークだった1991(平成3)年度の約3割に激減している。これは2000(平成12)年2月の規制緩和後、新規参入が急増した結果、価格競争となり、大手の貸切バス事業からの撤廃、車両数の減少、運賃の下落によってもたらされた。
貸切バス運賃の実態を示す重要なファクターは実働1日1車当たりの収入で、この指標が運賃動向を反映している。規制緩和後、日車収入は1991年度に比べ6割程度で推移し、実車走行キロ当たりの人件費は半分以下に削減された。

東バス協の青木正勝貸切部会長(ワールド自興社長)は「未加入事業者が5倍に増え、運賃競争が激化したのに加え、旅行商品の低価格傾向を受け、大変厳しい経営状況が続いてきた」と振り返る。

池田敦副会長(西武バス社長)は「ルールを守らない事業者が多く、旅行代金が安い。どこかにシワ寄せがいく。バス旅行は安いという風潮を払しょくしないといけない」と訴える。

東バス協会員の貸切バス事業者の日車当たりの収入は、2012年4月に発生した関越道・高速ツアーバス事故をきっかけに2012年度から上向き、新運賃・料金の適用が始まった2014年度は11・2%増と2桁台の改善を示し、青木部会長は「運賃は上昇に転じている」と好感する。

これは会員事業者が基準運賃を順守した成果だが、その一方では運賃が上がった分、貸切バスの利用が敬遠され、2014年度の運送収入は186億5千万円(前年度比3・4%減)と落ち込んだ。ここが市場原理、つまり消費者の選択に左右され、旅行会社への依存度が高い貸切バス業界の頭の痛いところであり、新運賃・料金を我慢して守るかどうかの試金石になる。
東バス協の貸切バス会員は85社で、東京運輸支局管内の374社のうち、実に4分の3に当たる289社が未加入である。車両数も会員1839台、未加入2197台と逆転している。

青木部会長は「会員事業者は下限割れ運賃は絶対受けない。会員は受けないので、小さな旅行会社が未加入事業者に行ってしまい、悲惨な事故が起きてしまったと思っている」と危惧し、「貸切バスと旅行業者は元請け・下請けの関係にあるが、理解を得て下限を割らない方法を旅行業界とともに考えていく」と再発防止を誓った。

スキーバス事故を起こしたドライバーが64歳で、高齢化と労働力不足が顕在化する貸切バス業界と日本の全業種が直面する課題を浮き彫りにした。
青木部会長は「貸切バスのドライバーは土日・祭日も勤務で、家族に不満がある。給料が安定すれば家庭も安定する。最終的には給料。年収500万円以上でないと、魅力ある職種にはならない。新運賃・料金には安全確保(コスト)は入っているが、人材確保は入っていない」と提起した。
スキーバスが高速道路ではなく一般道を走行したことに対しても、青木部会長は「私もハンドルを握っていたが、高速道路での運転は楽だから、ドライバーは自分の判断では一般道に降りない。バス会社か旅行会社から何らかの指示があったのではないか」と推測する。
問題点は多岐にわたるが、すべては適正運賃・料金の収受に通ずる。

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